100% Gear of Life 006 椎名誠『ハーケンと夏みかん』

006

100% Gear of Life
006 椎名誠の『ハーケンと夏みかん

「ハーケンというものを最初におしえてくれたのは沢野ひとしだった。高校1年、一六歳の時である。」

山と渓谷社から出版されている、椎名誠著『ハーケンと夏みかん』という短編集。その単行本のタイトルにもなっている『ハーケンと夏みかん』の冒頭である。この文章を初めて読んだ時、僕自身も16歳だった。

この『ハーケンと夏みかん』は、当時、高校1年生の椎名誠が、同じ高校に通う同級生で後にヘタウマの巨匠として有名になるイラストレーター・沢野ひとしとの、若々しくもほろ苦いある一日の出来事を描いたエッセイである。おおよそ「クライマー」とは言えない知識と経験しかない持ち合わせていない沢野ひとしにそそのかされて椎名誠が房総の鋸山にある石切り場跡の岩壁に挑む物語である。当然の結果として、ほんの数メートル攀じ登ったところで滑落し敗退。そのまま山を下り、途中になっていた夏みかんを拝借して食べるという物語だ。

当時、山岳部で活動していた僕は、山岳、冒険物のを本を貪るように読んでいた。
植村直巳の各書、山学同志会の小西政継を描いた『栄光の叛逆者』、あるいは、新田次郎の『孤高の人』や『栄光の岩壁』などの山岳小説を読んでは、アルプスやヒマラヤの雪山や岩壁登攀を夢想していた。
でも、同時に何処かで、自分の体力や運動能力、性格も顧みたとき、「自分には無理だろうな。」という気持ちを常に抱いていた。「俺なんてすぐに限界を感じて山なんか行かなくなるんだろうな。」という半ばあきらめの気持ちを。

そんな時、この椎名誠の『ハーケンと夏みかん』に出会った。僕の読書の対象は、過酷な自然や人間の限界に挑む姿を描くものから、「あやしい探検隊」へとシフトしていった。いい歳をしたおじさんが週末ごとに集まってアウトドアフィールドへ繰り出し、本当にくだらないことをしては、酒を飲み、とにかくよく食べ、焚火をして踊り狂う。おおよそ、「探検」とは言えないそのスタイルに、僕はなんとも言えない魅力を感じてしまった。

今、改めて思うことがある。僕がより過酷なクライミングの世界に挑んでいたとしたら?
その行く末は、2つしかない。もうとっくに山を辞めていたか、もしくは、死んでいたか。。。

あるとき、某アウトドアショップの店主(同い年の彼は、大学入学と同時に探検部に所属し、かなりヘビーな探検を実際に体験している)に、こんな話をした。「俺、実は17歳の時、山学同志会に入会の問い合わせしたことあるんだよ。あの時、本当に入会してたら、ヨーロッパアルプスやヒマラヤの観光登山のレベルでは見ることのできない本当にヤバイ景色をこの目で見れたんだろうなって思うんだよね。そう思うと、ちょっと後悔するところもあるんだよ。」と。
すると、その店主に、「入らなくて正解。入ってたら、今こうして俺たち出会って一緒に酒飲んでないし、そもそもコッシー死んでるよ。」と、笑いなながら言われた。幸か不幸か、どうやら、僕の自己分析は間違っていなかったようだ。

2018年46歳。あれからちょうど30年。冒険やチャレンジといったものとはかけ離れたスタイルであるけれど、今もなお、僕は山に登り続けている。

100% Gear of Life 006 椎名誠『ハーケンと夏みかん』

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